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ホテルジャンキー村瀬千文とホテルにまつわるヒト・モノ・コト

これまで生きてきたなかで一番おいしかった生ハム

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それは、ポルトガルとの国境に近いスペインの田舎町のカフェで食べた生ハムのサンドウィッチだった。

 

えんえんとまっすぐ続く道の右を見ても左をみても、見わたすかぎり一面にひまわり畑。長距離バスが休憩で停まったのは、小さな小さな町の雑貨屋を兼ねたような、なんのへんてつもないカフェの前だった。

昼下がりの強烈な陽射しとうんざりするほどの暑さで、誰も降りる人はいない。

 

運転手がカフェに入る姿がみえたので私も行ってみると、手をあげて挨拶する彼の前に黙ってさっと出されたのは、エスプレッソとサンドウィッチ。

私の姿に気づくと、「ここはね、ハモンセラーノがうまいので有名でね」(ちなみにスペイン語だが、食べ物の話だとなぜかわかる)とカウンターの上にぶらさがっている生ハムを指差し、食べかけのサンドウィッチの生ハムを引っ張り出して見せた。

 

「私も食べたい!」

カウンターの向こうの店主らしき男性に身振り手振りでリクエストすると、ちょっと困ったような顔で運転手の方を見やり、運転手が「まあ、頼むよ」とでも言うように顎をあげると、カウンターにぶらさがっていた大きな生ハムの塊のひとつをおろし、ナイフをシャッシャッと研ぎ皮で研ぎ、さっとふりあげると目にも止まらぬスピードで数枚そぎ取った。

まさに紙のように薄い生ハムがくったりとまな板の上に。それを、オーブンで温め二つに割り、ささっとバターを塗った小ぶりのパンにどっさりとはさむ。

 

「スペシアール、OK?」

これは特別なんだからな、と言いながら皿を私の前に置くと、運転手も「スペシアール、スペシアール」とうれしそうに言う。

 

かぶりついた。おいしくて、おいしくて、ただおいしくて、もくもくと息もつかずに平らげた。

食べ終わってからもおいしさの余韻にじーんとひたっていると、店主と運転手のふたりがじっと私の顔をのぞきこんでいた。

「オイシイ!」

「グッド?」

それからひとしきり、わぁーわぁーと三人で「うまいだろ?」「うん、オイシイ!」「うんうん、そうだろ、そうだろ」と騒いだことは覚えている。

生ハムのおかわりが次々に出てきて、いつしか運転手のエスプレッソはワインに変わっていた。

 

そして、バスの発車は大いに遅れた。

赤い顔をしてごきげんの運転手とバスに戻ると、車内はうだるように暑く、文句も言えないくらいぐったりした乗客たちがいた。

 

 後でセビリヤに着いてからホテルの人に聞いたところによると、くだんのカフェ、スペインの食通たちの間では有名な生ハムを食べさせる店なんだそう。

 

昨年12月、私が主宰するホテル愛好家の集り「ホテルジャンキーズクラブ」のクリスマスパーティーをホテルインターコンチネンタル東京ベイの「ジリオン」で開催したが、会場の「ラウンドテーブル・ラウンジ」ではトゥーオーダーで生ハムを切ってくれるサービスが大人気だった。

生ハムは、なんてったって、切りたてに限る。

 

(上の写真はホテルジャンキーズクラブ会員の佐藤真由美さんがクリスマスパーティーの際に撮影したものをお借りしました)