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ホテルジャンキー村瀬千文とホテルにまつわるヒト・モノ・コト

全身で「食」を楽しむ

料理 フランスのホテル

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ずっと東京の都心暮らしをしていたが、しばらく築地のすぐ近くに住んでいたこともあって早朝、築地の場内で長靴はいたオジさんたちに混じって買い物していたので、それなりに新鮮なものを食べていた、と思っていた。

しかし、鎌倉でそれが違っていたことを知った。

まず、魚屋さん。ある日、店先に魚がなく閑散としているので聞いてみたら、「風が強かったからね」。強風の日は漁に出られないので、地元の漁師から魚が届かないのだという。

近所の魚屋さんが休みの日に「この辺でほかにお刺身が買える店、ありますか?」とお肉屋さんで尋ねた。奥さんが「さっきスーパーに行ったら、刺身のパックが並んでたけどねぇ」と言うや、横からオジさん「とんでもねぇ!スーパーの刺身なんて、刺身じゃねぇよ!」。

よく行く魚屋さんでは、まず、その日の漁で獲れた魚が並ぶ店先のケースから魚を選ぶ。そして、料理に合わせて捌いてもらう。お刺身は切りたてじゃないとおいしくないからと言い、食べる予定の時間によって「柵のままにしとくから食べる時に切ってね」「食べる直前に皮をむいてね」など。

とにかく、ここでは「新鮮」の基準が違うのだ。

 

マルセイユの「Le Petit Nice Passedat ル・プチ・ニース・パセダ」というブイヤベースで有名なオーベルジュでブイヤベースを食べたときに、シェフに作り方を教えてもらったことがある。

魚は必ず丸ごと入れなければならないのだが、1種類だけではダメで最低でも4種類だとか、家庭で作るにはなかなかハードルが高い。

ある日、魚屋さんでホウボウを見つけた。ブイヤベースによく使われる魚のひとつで、見ていると、むらむらと作りたい感が湧いてきた。

三枚におろしてもらって、アラはぶつ切り。習ったとおりに、オリーブオイルにつぶしたにんにくを入れて魚を焦げ目がつくくらいに焼き、身は別にしておき、アラでスープをとった後、仕上げの段階で合体する。ほんとうはスープと魚は別に食べるのだが、一緒に出した方が気分が盛り上がる。薄く切って軽くトーストしたバゲットとアイオリソースを添える。

このアイオリソース、プロヴァンス界隈でよく食されるマヨネーズにニンニクをたっぷり入れたソースで、とてつもない量のニンニクのおろしたのが入っているので、食べた人は「アンタ、さっきアイオリ食べたでしょ」とすぐにわかるというしろもの。

私が習ったブイヤベースにはトマトやたまねぎの類は入れないので、このアイオリソースに「少しトマトケチャップを入れるといいよ」とシェフが教えてくれた・・・・・

などと思い出しながら、ただ無心に、もくもくとブイヤベースを作った。食べた。満足した。

 

「ル・プチ・ニース」のようなオーベルジュは特にフランスに多いが、自慢の料理を食べさせることを主としたホテルの形態のひとつ。おいしいものをたらふく食べて、幸せに満ちたまま、さあ、あとは部屋で寝るだけという、食べることが好きな人にとっては最高のところである。