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ホテルジャンキー村瀬千文とホテルにまつわるヒト・モノ・コト

桐山秀樹さんとのこと

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桐山秀樹さんが亡くなられた。

東京の定宿のホテルに滞在中のことだったそうだ。

桐山さんのお名前を知ったのは、「オール讀物」で長期連載されていたコラム「ほてる千夜一夜」だった。ホテルをテーマにした自由な切り口のコラムで、いつも楽しみに読ませていただいていた。

初めてお目にかかったのは2002年の帝国ホテルのメディア懇親会だったと思う。初対面のときから、お互いにポンポンと言いたいことを言い合う気楽なおつきあいで、2002年からは小誌「ホテルジャンキーズ」で「外国人が愛した日本のホテル」というタイトルで連載コラムを書いていただいた。

この連載の打ち合わせでお会いしたのは一番町にある今はなきダイヤモンドホテル本館のティーラウンジだった。約束の時間より早く着いていた桐山さんが、ロール・サンドウィッチを口に入れた瞬間、私が「こんにちは!」と声をかけたため、ただでさえ大きい桐山さんの目がまんまるになり、まさに鳩が豆鉄砲を食らった顔。思わず吹き出して、大笑いしたら、「ふつうさ、そういう時はちょっと待ってから声かけるもんだよ」。

ノンフィクション作家としてホテルだけでなくいろいろなテーマで多くの本を書かれていたが、そのお名前が広く知られるようになったのは糖質制限ダイエットの本だった。実は、桐山さんのご本の表紙にシルエット姿で登場しているホテルマンとは、私がご紹介した名古屋マリオットアソシアホテルGMの太田範義さんである。

桐山さんがダイエットに成功した後、帝国ホテルのレセプションでお会いしたのだが、実は、このとき私は桐山さんが痩せたということにまったく気がつかず、「あら、お久しぶり。お元気でした?」。

しばし雑談した後、桐山さんがムッとした顔で「ムラセさん、なんか気がつかない? 僕、すごく変わったでしょ?」。

なんのことやらさっぱりわからず、「え? なんか変わりました? いつもの桐山さんのまんまですけど」。

ついに業を煮やした桐山さん、「ものすごく痩せたんですよ、僕。見てわかりません? こんなに痩せたのに。ムラセさんってさ、僕のことなんて、なんにも見てないんだもんなぁ」とご立腹。

「私がいつも見ていたのは桐山さんの中身であって、外見ではありません」と言い訳したが、私にとっては、痩せても太っても、桐山さんは桐山さんだった。

 今年も3月に開催される帝国ホテルのメディア懇親会でお目にかかり、軽口をたたき合うのを楽しみにしていたのだが、とても残念だ。

でも、桐山さんのことだ、美味しいものがいっぱい並んだ会場のどこかでまんまるい目をして何か頬張っているのを私に見つかり、あわてるにちがいない。

心からご冥福をお祈り致します。

 

* 今、桐山さんの連載の初回掲載号の表紙を見ていたら、おとなりに常盤新平さんのお名前も。そういえば、常盤さんも既にあっちの世界へ逝かれたんだなぁ…おふたりに合掌。