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ホテルジャンキー村瀬千文とホテルにまつわるヒト・モノ・コト

わたしのパリ2日目の晩の過ごし方は「荒療治」

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パリに着いて2日目の晩、いつも「荒療治」と称して行くのがサンジェルマンデプレの大通り沿いにある「ブラッスリー・リップ Brasserie LIPP」。

回転ドアを押して中に入るなり、手加減なしのフランス式というかパリ式接客、パリ風早口フランス語攻撃にあう。

「ボンソワール! ひとりです。ディナーを食べたいのだけれど」

入り口にわさわさたむろしているギャルソンに言うと、即、後ろに控えたメートルドテルのムッシューに回される。

今回泊まったホテルではスタッフたちがみな流暢な英語を話すし、カフェやブティックなどどこでも英語が通じるしで、ちょっとぬるま湯に浸かっていたせいか、ムッシューがにこやかに「ボンソワール、マダム」と言ったのに対して、「ボンソワール、マダム」と返してしまった…。

しばしの間、ふたりでじっと見つめあった後、

「失礼ですが、マダム。わたしは、マダムではありませんが」とムッシュー。

「アッハッハ、ごめんなさーい! あなたは…ムッシューでした」

笑ってごまかし、抱き合って大笑い。

案内された1階のベンチシートには、次々とひとり客の男性が案内されてくる。

メートルドテルのムッシューはにこやかな笑顔をふりまきつつ、ひと目で客を見抜き、彼がふさわしいと思うテーブルへと配する。

見ていると、フランス語を話さない外国人やいかにも観光客風の客は2階へ。常連客は1階に、それも、ひとり客とカップルなどを実に絶妙な配置でばらまいていく。

客の多くが常連客のようで、まず到着すると入り口でしばしメートルドテルのムッシューやギャルソンとの会話を楽しみ、食事中もなんだかんだとおしゃべり。

隣に並んで座っているふたりは、それぞれひとりで来たものの、知り合いどうしらしく、「ステーキ、焼き方はレアで。ポテトフライを添えて」「僕は鴨のコンフィ」とそれぞれメインの料理とワインを注文したあとで、「ふたりで分けっこしようか?」と前菜にパテを注文。ワインも飲み比べしたりしている。

目が合うとにっこり笑って、料理やワインをネタにあーだこーだとおしゃべりが始まった。

すぐ近所のアパルトマンに住んでいるというふたりの紳士(推定40代)の話題は家の壁にかける絵の額について。カタログを見ながら、えんえんとどれにしようか言い合っている。ふたりとも妻子が出かけていない晩はここで晩御飯を食べるのが楽しみなんだそうだが、すっかりはしゃいで、ホントに楽しそう。

この晩は、みてると近所の住人らしい男性のひとり客とシニアのカップル客が多かった。が、女性のひとり客はわたしひとりだったせいか、周囲が注目しているのをひしひしと感じる。反対側の席のカップルの女性などほとんど真横から注視状態だ。

さあ、オーダーから「戦い」(って、勝手にですけど)ははじまる。

ほとんど飲めないけれどワインをグラスで注文して置いておき、

大皿いっぱいに盛られた前菜のスモークサーモンにレモンをたっぷり、

鴨のコンフィと山のようなローストポテト。

これらを次々ときれいに平らげ、

お皿いっぱいの巨大なプディングもカラメルソースまでぺろり、

コーヒーをお代わりし、

最後まで悠々と食事の時間を楽しむ。

「ブラヴォー、マダム!」

隣の紳士に完食をほめられたけれど、カロリー半端じゃありません。

 

ちなみに、この「ブラッスリー・リップ」、かつては「各界のエリート」が集う店で、アンドレ・ジイドなど文化人や、大統領になる前のミッテラン元大統領、ロスチャイルド一族なども常連客だったという老舗店。

上の写真は1985年に「パリのレストラン&キャフェ/バー」という本をつくったときの取材で撮影したものだが、今でも、まったく、ホント、まったく変わっていない。